資生堂・入江広憲様×FJ前代表・吉田大樹

 

 

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いくつになってもスキンシップも取れる親子関係に!

 

吉田 入江さん、今日はよろしくお願いします。資生堂のヘアメイクアーティストとして国内外でご活躍されている入江さんですが、子育てにもとっても積極的だったそうですね。いま入江さんのお子さんはおいくつですか?

 

入江 20歳と18歳の息子が2人です。性格も異なり、対照的な長男と次男ですね。

 

吉田 大人として成長していく中で、兄弟はどんな関係ですか?

 

入江 2人とも、特に大きな反抗期があったわけではなく、自分らしく成長していったと思います。長男はマイペースで淡々と自分のやりたいことをやる感じ。一方、次男は破天荒でやんちゃな性格ですね。

 

吉田 年齢が近いので激しい兄弟げんかもあったんじゃないですか?

 

入江 長男が中学校に上がるまではとっても仲が良かったですね。よく遊んでいましたよ。中学校と小学校と分かれたあたりから、思春期に入ったこともあって、少しずつ会話が少なくなりましたね。

 

吉田 思春期はどのように乗り切りましたか?

 

入江 2人とも母親を介して話をしていましたね。ツンケンとしているわけではないのですが、必要最小限の会話だけという感じでした。いまは、また成長して長男が次男に気軽に声をかけるのですが、次男からはあまり話しかけようとはしないですね。互いの成長の姿を見るのは面白いものです。先ほど言ったように、次男はやんちゃですが、男の子ですし、そういう時期があってもいいと思っています。おとなしく静かにしているよりは、何事も経験したほうがいいですね。

 

吉田 入江さんと息子さんとはどんな親子関係ですか?

 

入江 次男は僕と同じくらいの体格で、もう力では負けますが、朝 次男をお越しに行ったときに、なかなか起きないとプロレス技をかけ合ったりしてじゃれ合ったりしていますよ(笑)

 

吉田 息子さんがその齢になっても、スキンシップを取れる関係っていいですよね。いまあまりそういう親子って聞かないですね。

 

入江 そうですね。ほかの人とそのことを話していても、「えっ~」と驚かれることがありますが、意外と我が家では当たり前のようにできていますね。

 

自分が高校生のときのことを考えると、親が触ってくるだけでとんでもない、という思いがありましたが、言葉では「触ってくるな」と次男も言いますが、意外と楽しんでいるんじゃないかと思います。

 

吉田 それはやはり息子さんが小さいころから、そうしたスキンシップを取ってきたからじゃないですか?

 

入江 そうですね。私自身は特に意識することなくやっていましたね。

 

吉田 お子さんが産まれた1990年代前半は、まだまだ父親が子育てにしっかり関わるという意識が低かったと思いますが、その中で、どのように子育てをしてきましたか?

 

入江 僕はヘアメイクという仕事をしていますが、フリーではなく資生堂という会社に所属していたということもあり、土日は基本的に休むことができました。我が家は共働きでしたが、妻は平日家にいて土日に仕事をするスタイルでしたので、土日はずっと子どもの面倒をみていました。子どもと一緒に食事をしたり、近所に遊びに行ったりすることが多かったですね。

 

吉田 子育ては「質より量」という話をよくするのですが、子どもに時間をかければかけるほど、子どもの気持ちはしっかりとパパについてきてくれると感じます。うちは娘が3歳半くらいまで、パパと一緒に寝てくれませんでしたが、うちも妻が土日に仕事をするようになって子どもと過ごす時間が増えてから、次第に娘がパパと寝てくれるようになりました。

 

吉田 一番子どもとの関係で気をつけたことはありますか?

 

入江 とにかく帰ってきて子どもが何か話をして来たら、後回しにせずに話を聞いてあげるように心がけていましたね。できるだけ夕ご飯も一緒に食べて、そのときに何気なく今日の出来事などを聞くようにしていました。

 

吉田 1990年代には、まだそういうパパは周りにいなかったんじゃないですか?

 

入江 そうかもしれませんが、自分にとっては当たり前という感じでした。たまたま会社の社宅に住んでいたので、周りは同僚が多く、知っている人ばかりでしたが、子どものことを話すことも楽しかったです。今で言う、パパ友、ママ友には恵まれていましたね。社宅以外の人とも気軽に話していました。夏にはその公園に集まってみんなで花火をやったりもして、地域にも溶け込み、繋がりもありました。そうすることで、生活する上での安心感も増しました。子育てにもいい影響があったと思います。

働きやすい職場づくりで女性社員の就業継続可能に

 

吉田 資生堂で働いていて、働きやすさを実感することが多かったんじゃないですか?

 

入江 そうですね。女性の育児休暇もそうですが、日本の他の企業よりも率先して取り組んできたと思います。育休を取得しても、元のポジションに復職できるようになっていますし、育児をする時間を考えて勤務シフトを組んだりしています。20年前はまだまだ苦労をした女性社員もいましたが、再雇用される場合もあり、定年までは働きたいと思う人は働ける職場になってきていると思います。

 

吉田 企業としては、何年も勤務した社員が結婚・出産を機に辞めてしまうのは損失ですよね。特に資生堂などの化粧品は、女性のスキルやセンスも大事だと思うので、そういう社員がいなくなるのはもったいないですよね。

 

入江 そうですね。企業は社員にも人材研修などでコストをかけているわけですから、そうした社員がいなくなるのは本当にもったいないことです。ブランクがあるのはしかたがないとは思いますが、われわれの仕事は手に職があることで成り立っているので、多少感覚は鈍りますが、感覚さえ取り戻すことができれば同じように働くことができます。私の部署では男女の割合が1:2ほどで、女性のほうが多いので、女性が働き続けられる職場を作るというのはとても重要です。

 

吉田 女性社員が多いというのは環境を整備しやすいですよね。一方で、男性が多いと働き方が男性的になってしまって、働き方を変えるというニーズがあまり上がってきませんので、環境整備は遅れがちになってしまいます。資生堂は女性社員も多く、商品も女性向けの化粧品などが多いので、女性が活躍できるように制度を積極的に変えてきたのだと思います。

 

一方で、男性社員の子育ての現状はどうでしょうか?

 

入江 子育てに積極的な男性もいますね。夫婦で同じ部署という方もいます。そういう方ほど、早く帰る傾向にありますね。仕事の際は、仕事に集中して、お子さんのイベントなどがあるときにはなるべく参加するようにしています。そうやってメリハリをつけながら、「ワーク&ライフバランス」で仕事と子育てを両立させています。

 

授業参観に参加、子どもの姿を見つめ続ける

吉田 幼稚園や保育所、小学校では平日に行事があることも多いですね。そうした場合、ほとんどがママの参加ですね。でも、そこでパパが年休や半休などの休みを取って参加してくれるともっとママへの負担が軽くなると思いますし、パパも子どものことについてもっと関心を持てるんじゃないかと思います。

 

入江 子どもが小学生のときは、よく授業参観にも行っていましたね。中学生にもなると子どものほうから「いいよ、来なくて」となるところですが、見つからないように遠くから見たりすることもありましたね。

 

さらに、高校にも見に行っていたんですよ。子どもに気づかれると、知らん顔して「絶対に声掛けるなよ」というオーラを出していましたね(笑)

 

吉田 入江さんのようなかっこいいお父さんだったら、僕は来てもらいたいけどな~(笑)

 

入江 父親から声をかけられるのが恥ずかしいというのはわかるので、なるべく目も合わせないようにはしていましたよ。ただ、子どものそうした姿を父親にしろ母親にしろ、見つめ続けることは大事ですね。

 

母親が見に来るのは決して珍しくはないけれど、父親は比較的少ないですね。母親の場合、グループで来ているのを見ることはあります。

 

吉田 そういうところで居にくさは感じることはありますか?

 

入江 僕は特に意識はしませんでしたね。

 

吉田 そういうのって大事ですよね。周囲の目を気にしていたら何もできないですから。自分で「こうだ」と思ったことをどんどんやっていくというのは本当に大事だと思います。

 

いまでも家族そろって行動することはありますか?

 

入江 年に3回くらいは旅行に行きますね。夏は必ず川に行ったりバーベキューしたりします。「もう来ないかな?」と思いつつ、日程を決めるとちゃんと2人とも来てくれるんです。

 

吉田 自分の場合には2つ上の兄貴がいて、まず兄貴が行かなくなって、そうすると自分も行きたくない感じになってしまって、そうすると毎年行っていた家族旅行ができなくなっていくというパターンでした。おそらく、そういう家族のほうが多いんじゃないですかね。

親として子どもがやりたいことを支えることが大事

 

入江 上の子が大学に行くようになってサークルの活動に参加するようになってからはなかなか日程を合わせるのが難しくなりましたね。実は長男は高校生の頃からずっとゲートボールにはまっているんですよ。

 

学校ではなく地域の活動なので、おじいちゃんもいれば自分と同じ親の世代もいる。そういう人たちと話をするのがすごく良かったと思います。今も大学に行ってもそのサークルに毎週通っていて、大会に行ったりもしています。

 

それが影響して、休みの日などに一緒に過ごす時間は少なくなりましたが、それはそれでよかったと思います。

 

吉田 大体は学校に行くと他の世代と付き合うことがなくなってしまうので、そうしたサークルを通じて、縦横斜めの関係があるのは非常にいいですね。

 

入江 老後も安泰ですしね(笑)

 

中学まではサッカーをやっていて、でも「人とぶつかり合うのは好きじゃない」と言い始めて、中学で辞めてしまいました。それは長男らしいかな~。

 

ゲートボールはチーム戦なので、息子の話を聞けば聞くほど、頭を使うスポーツのようであまり体力も使わないので、老若男女楽しむことができるというのもいいですね。

 

吉田1つのことを若いうちから続けるというのはいいですよね。小さいときに、親から「○○をやらなきゃダメ!」ということはなかったんですね。

 

入江 そうですね。自分でどんどんやることが多かったですね。何かスポーツでもいいからやっていてほしいという思いはありました。小学校に上がる前からミニバスケットをやっていたのですが、それがいつしかサッカーに変わりました。地域のサッカークラブで一生懸命に楽しくやっていましたね。2人とも毎週一緒に練習や試合に行くこともあったので、親としては同じスポーツをやってくれると、一緒に行けるので助かりました。

 

吉田 そうやって、入江さんの場合は、親子の関係をいい形で築いてこられたのだと思います。もちろん問題はあるかとは思いますが、それはどこの家庭でもあることですし、兄弟がいても接し方の違いはあるのでその子その子で子育てのやり方も変わってくるのだと思います。ただその前提として、親子でちゃんとコミュニケーションを取ることは何よりも大事ですね。子どもも心の支えになるのだと思います。入江さんのお話を聞いて、いままで以上にコミュニケーションの大切さを感じることができました。

 

入江 たとえ子どもの問いに答えがなかったとしても、まずは聞いてあげることが大事です。ただ反対に、親が子どもに言い過ぎないということも大事だと思います。長男が大学受験のときに「勉強しろ」とは一言も言わなかったのですが、するとあるとき、ぼそっと「俺には何で勉強しろって言わないの?」と聞いてきたんです。こちらとしては、言わなくてもやっていると思ったので、それ以上言う必要ないと判断したのですが、親が子どもに言い過ぎることで、子どもを追いつめてしまう可能性があるので、そうならないようにしていましたね。

 

吉田 親が人生のきっかけになるいろんな選択肢を与えてあげるのは大事だとは思いますが、それがいつしか、子どもに強制性を帯びてしまうので、そこは気をつけたいですね。

 

入江 よく話し合って確認し合って「やりたい」といったものは一回はやらせてみる。親から「絶対にダメ」ということは言わなかったですね。一回はやってみて、できなければまた別のことにトライすればいいと思います。

 

実は僕は、父親に美容の仕事をものすごく反対されていたんです。それで諦めて一度別の仕事をしました。でも、その職場にいた上司たちを見て、自分は違うなと思ったんです。「やっぱり美容をやりたい、やるんだったら東京でやりたい」と父に言ったら、2つ返事で「そうか、じゃあやればいい」と言ってくれたんです。それで東京に出てきたという経緯があるので、自分がやりたいことをやるというのは本当に大事だと実感し、それを実行したわけです。

 

吉田 僕も10年後同じような形で子どもたちにやりたいことをやってもらえるようにできれば思います。

 

入江 無理をしないということも大事です。「できる限り」であればいいのかなと思います。子どもが右往左往しながら成長していくことも大事なことです。

 

子どもが道を外そうとしたら戻してあげる。ときどき半分くらいはみ出すんですけどね(笑)

 

吉田 入江さんの子育てを見習いつつ、僕もこれから楽しんで子育てをしていきたいと思います。今日はありがとうございました!